開業にあたっては諸官庁に対して様々な手続きを行う必要があります。これらの中には同時進行で手続きを行わなければならないものも含まれていますが、ここでは諸官庁ごとに分けて、提出すべき書類、提出すべき時期、添付書類について解説します。
1.保健所
新規に診療所を開設する際には、医療法第8条に基づく診療所開設届(※図表1)を、開設しようとする診療所の所在地を所管する保健所に提出する必要があります。この手続きは下記の順に行うこととなります。
(1) 事前相談
開設計画時の変更可能な段階で、診療所の構造設備や添付書類、開設の日程、広告などについて所轄保健所の担当者と面談し、あらかじめ相談しておきます。
(2) 開設
医療法第8条では「開設した日から10日以内に診療所の開設を届けること」となっています。ここで言う開設した日とは、保健所に提出する開設届出上の開設日であり、施設が整い診療を開始できる状態になったことを指します。保険診療を行う場合、実際に診療を開始するのは社会保険(保険医療機関)指定後となります。
(4) 実地検査
検査日は開設届提出時に決定されます。先着順のため、開設届の提出時の状況により希望日時に検査を受けられない場合があるので注意が必要です。検査の際には開設者又は管理者の立会いが求められます。
(5) 副本の交付
保健所内での決裁後、開設届の副本が交付されます。大抵の場合、検査日から2、3日以内には受け取る事ができます。
また、開設届のほかに保健所に届け出る許可手続きとして、代表的な例としては以下のようなものがあります。設備や診療内容に応じて届け出ることとなるので、開設届提出前に確認をする必要があります。
- ①診療所使用許可申請(有床の場合)
- ②診療用エックス線装置備付届
- ③麻薬施用者免許申請、麻薬管理者免許申請
- ④各種医療機関指定申請(結核、被爆など)
- ⑤診療所開設許可申請書(開設者が法人の場合)
2.厚生局
開設する診療所において保険診療を行うためには、保険医療機関指定申請書(※図表3)を、診療所の所在する地域を管轄する地方厚生局都道府県事務所(東京都の場合は関東信越厚生局 東京事務所)に提出し、指定医療機関コードを発行してもらう必要があります。この申請書の受付には毎月締切日が設けられており、締切日以前の申請であれば翌月の1日以降、締切日を過ぎてからの申請の場合には翌々月の1日以降に指定となります。この締切日は各事務所によって異なりますが、地方厚生局のホームページで各事務所の毎月の締切日を確認することが可能です。事前に保険医療機関指定申請の締切日を確認した上で前述の保健所への開設届を行うようにしましょう。何故なら厚生局への保険医療機関指定申請は、保健所にて開設届が受理された後にしかできないこととなっているからです。開設届の副本交付に手間取り、厚生局事務所の締切日を過ぎてしまうと、診療開始の時期が一ヶ月以上も先に延びてしまいかねません。実務的には、保健所への開設届作成と同時に保険医療機関指定申請書も作成し、開設届受理前に地方厚生局事務所の担当官に申請書類の事前チェックを受けておくことをお勧めします。添付書類として、保健所から交付を受けた開設届の副本のほか、保険医療機関・保険薬局指定申請書 添付書類(※図表4)の様式があります。
この他に、地方厚生局にて行う手続きとして、基本診療料の施設基準等に係る届出書・特掲診療料の施設基準に係る届出書の提出があります。保険診療料の中には、施設基準の要件を満たし、かつ届出をしない限り所定の点数を算定することができないものが数多く存在します。こちらも保険医療機関指定申請書と同様に、都道府県事務所ごとに毎月締切日が設けられているので注意が必要です。保険医療機関指定申請の事前相談に出向くと、施設基準の届出の説明を担当官から受けることとなります。保険診療開始月から全ての診療に関して所定の点数を算定できるようにする為に、予定している診療内容に関して担当官と充分相談しておくと良いでしょう。
3.社会保険事務所、労働基準監督署、公共職業安定所
次に従業員を雇用する上で必要となる手続きについて紹介します。
(1) 社会保険事務所
健康保険及び厚生年金保険に加入する際には、事業所の所在を管轄する社会保険事務所にて手続きをします。標準的な必要書類は以下の通りです。
[提出書類]
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 新規適用事業所現況書
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
[確認書類]
- 給与支払事務所等開設届
- 労働者名簿
- 出勤簿またはタイムカード
- 賃金台帳
- 年金手帳(被保険者及び被扶養者)
(2) 労働基準監督署
労災保険と雇用保険の2つを合わせて労働保険と言います。労働保険の加入の手続きは、労働基準監督署と公共職業安定所との2つに分かれますが、手続きの順番は労働基準監督署が先となります。標準的な必要書類はそれぞれ以下の通りです。
[提出書類]
- 労働保険 保険関係成立届
- 労働保険概算・確定保険料申告書
[確認書類]
- 許認可証の写し
- 賃貸借契約書の写し(土地・建物を賃借している場合)
(3) 公共職業安定所
労災保険と雇用保険の2つを合わせて労働保険と言います。労働保険の加入の手続きは、労働基準監督署と公共職業安定所との2つに分かれますが、手続きの順番は労働基準監督署が先となります。標準的な必要書類はそれぞれ以下の通りです。
[提出書類]
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
[確認書類]
- 許認可証の写し
- 賃貸借契約書の写し(土地・建物を賃借している場合)
- 事業主の住民票
- 労働基準監督署に提出した保険関係成立届の事業主控
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿またはタイムカード
- 雇用契約書(雇入通知書)
なお、労働関係成立の日から50日以内に労働保険概算保険料を納付しなければなりません。
4.税務署
次に医院開業に際して税務署に対して行う届出・申請手続きのうち、主なものを紹介します。これらの中にはその提出が法律で義務付けられているものと、任意だが納税者が有利な方法を選択して提出するものとに分かれます。提出期限を過ぎてしまうと開業年から適用することができなくなるので、手続きの内容と合わせて提出期限についても確認が必要です。
新たに事業を開始したことをこの書面により届け出ます。事業を開始した日から1か月以内に納税地の所轄税務署長に提出します。
(2) 給与支払事務所等の開設届出書
給与の支払事務を取り扱う事務所等を開設したことをこの書面により届け出ます。事務所を開設した日から1か月以内に所在地の所轄税務署長に提出します。
(3) 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書
源泉所得税は、原則として徴収した日の翌月10日が納期限となるので毎月納付業務が発生することになりますが、給与の支給人員が常時10人未満である場合は、納期の特例の承認申請をすることで7月10日・1月10日の年2回にまとめて納付することができるようになります。提出時期は特に定められていませんが、原則として、提出した月の翌月以後に支払う給与等からの適用となります。よって、申請書を提出した月に給与や税理士等の報酬などの支払があり、徴収した源泉所得税の納期限は翌月10日になるので納付もれがないよう注意が必要です。
またこの書式は、7月から12月までに徴収した源泉所得税の納期限を翌年1月20日(通常は1月10日)とする特例制度を受けるための届出書も兼ねています。こちらも提出時期は特に定められていませんが、提出した年の7月から12月までの間の所得税について適用を受けようとする場合には、その年の12月20日までに提出する必要があります。
青色申告書によって申告するためには、納税地の所轄税務署長に対して所定の申請を行って初めて認められることになります。所得税法の規定では、「業務につき帳簿書類を備え付けてその取引を記録し、かつ、その帳簿書類を保存しなければならない。」とされています。課税庁である税務署においても、正確な記帳及び計算に基づいた所得が正しい所得とすることができ、これが適正で公平な課税に結びつくものとして青色申告推進の立場を取っています。よって、青色申告には帳簿書類の備付けや保存、明細書の添付などの条件が求められる一方、様々な特典がある。青色申告の特典として代表的なものは次のようなものがあります。
- 青色申告特別控除(10万円または65万円)
- 青色事業専従者給与の必要経費算入
- 各種特別税額控除及び減価償却の特例
- 一括評価による貸倒引当金の必要経費算入
- たな卸資産の低価法による評価
- 純損失の繰越控除
- 純損失の繰り戻しによる還付
- 推計による更正又は決定の禁止
青色申告承認申請書の提出期限は、事業を開始した日から2か月以内です。(2年目以降に青色申告にしようとする場合は、青色申告にしようとする年の3月15日まで)税務署長は、納税者の青色申告承認申請について、承認又は却下を書面によって通知することとなっていますが、申請を行った年の12月31日までに何の通知も無い場合にはその日をもって認められることとなっています。
(5) 青色事業専従者給与に関する届出書
所得税法では、事業主が生計を一にする親族に支払った対価はその事業の必要経費に算入することができません。しかし、青色申告者については事業と家計との区別がはっきりしていることから、実際に事業に従事している親族に支払う正当な対価については必要経費に算入することを認めています。
この適用を受けるには、青色事業専従者の氏名、その職務の内容及び給与の金額並びにその給与の支給期その他一定の事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。届出書の提出期限は、事業を開始した日から2か月以内です。
たな卸資産の評価方法には次の9つの方法があります。
- 個別法
- 先入先出法
- 後入後出法
- 総平均法
- 移動平均法
- 単純平均法
- 最終仕入原価法
- 売価還元法
- 低価法(青色申告者のみ選定可)
事業主はこの中から好きな方法を選択できますが、そのためには、その年の翌年3月15日(確定申告期限)までに所轄税務署長に選定の届出を行わなければなりません。この届出を行わなかった場合又は選定した評価方法により評価しなかった場合には、最終仕入原価法に基づき評価額が計算されることとなります。
また、この届出書では減価償却資産の償却方法についても同時に選定することができます。減価償却の方法には特殊なものもありますが、一般に採用されているのは定額法と定率法です。診療所などの建物や、ソフトウェアなどの無形固定資産は定額法が強制適用となりますが、医療機器などそれ以外の資産については届出を行うことにより定率法を選定することが可能です。(所得税では届出を行わない限り定額法により償却費が計算されることになります。)定率法の特徴は、定額法に比べて償却費を前倒しで必要経費に算入できることです。医師の場合、開業初年度から所得が高く、納税が大きくなるケースが少なくありません。同時に、医療機器の購入や金融機関への返済資金など、必要となる資金も多いのです。こういう場合、定率法を選択することで開業当初の納税額を少なくすることは、資金繰りの観点からは有効と言えます。
たな卸資産の評価方法、減価償却資産の償却方法とも、届出期限は翌年の3月15日(確定申告期限)であるため、所得の計算をし終えてから有利な方法を選択することも可能です。専門家と相談の上有利な方法を選択し、届出が必要な場合は届出を忘れないように注意が必要です。